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[展評]​「shelter/bunker/cave」

AYUMI GALLERY/CAVE Kees van Leeuwen "In Praise of Space"

MASA-MOTO氏  へ

 

「ことばから洩れ落ちる空間をわたしは刻み込もう」

この意思表明によって、ここから連なる言説はすべて、東貞美作品にとって嘘であることになります——つまらないことを言ってしまえば、ことばは始原から嘘であり、ことばはことばの領域を超えられず、ひとり吃るのみです。それでもなお、ここに連ねる意味は?おそらくそれは、私自身が、“投げ捨てるべき梯子”を好むからなのでしょう。あるいは、或る方にご指摘頂いたように、私が抽象に呼ばれているのか。そして、削ぎ落とされてもなお残った部分に、今受け継ぐべき痕跡が微かでも光れば……。そう願ってもいるのです。

「灯をともした拡大鏡」の下に刻まれた銅版画の小宇宙に、幾何性が認められることは明らかです。緻密な刻線には偏執狂的執着さえ感じられ、その全体は秩序を表象する機械部品を思わせます。もっとも、機械部品はそれ一つでは有機的な運動をなしませんが、東さんの小宇宙は明らかに運動——蠢き、膨張と収縮を繰り返す波動——しているように感じられます。それはおそらくは、かたちの破局性にあるのでしょう。秩序体でありながら、完全な対称は望まれていないのです。そのことに気がついた時、私は初めて東さんの笑いを思い知りました。“非知による笑い”ではなく、犯意のこもった微笑です。そうして冷ややかに微笑しながら、ビュランというひどく繊細な凶器とともに、共犯者である刻線を、小宇宙を稼働させる高密度のエネルギーとして、潜り込ませたのです。東さんの銅版画は幾何性と破局性の共存という、ローレンツ・アトラクタのような振る舞いを見せるのです。

一部の作品群、すなわち複雑さに起伏のある『MEMORY CHIPS』に類する作品たちには、特に共存の意思が宿っているように思われます。そのタイトルも、記憶という改竄されやすく不安定なものと、チップという機械仕掛けの固定的なものとが組み合わされています。

MASA-MOTO氏は、「相互連結性」という言葉を使われました。これについて、氏の見解と外れるかもしれませんが、私なりにいくつか無意味を並べようと思います。東さんの版画が、相互連結性を指向していたとすれば、それはある種のコミュニケーションの断絶を前提にしたものといえます。では、いかなるものが断絶していたのか。それは東さん自身と作品との間の断絶であるように思われます。MASA-MOTO氏のことばをお借りすると、対象喪失の問題です。もっとも、この断絶はさほど重要な点ではないように思っています。

東さん自身が「紙に喰いこむ線たちは、わたしを裏切らない」と記しているように、作品たちを所有という視点よりは共犯者という視点で捉えていたようだからです。仮に問題となるとすれば、それは彫り込むことを終えた瞬間か、あるいは彫り込まれた線分が紙に刻まれた瞬間の、作者と作品の離別です(“作者の不在”の可能性であり、氏が仰る対象喪失以前の、対象喪失の可能性です)。しかしそれも、東さんの場合は共犯者という冷めた視点によって、スルリと逃れてしまうのでしょう。共犯というフラジャイルな関係には、異様な強度が伴います。

このように、自他ではなくむしろ自自の断絶を前提とした相互連結性。それは深淵を閉じることであり、みずからのオブジェを円環に閉じ込めることを意味するようにも思われるのです。紙の内側に彫り込まれた、辺境との境界線と内実としての線群。それは共犯者との実行行為——緊張、集中、暴力、接面——であって、関係としての空間と無限の広がりを措定します。先刻申し上げた、幾何性と破局性の表象です。

閉じた系に陥れば、自己を維持することはできません。刻線を超えうる鑑賞者との相互連結性によって、エネルギーを循環させる必要があります。今回の展示にあたって、東さんの幸福を考えた時、課題は遺された作品との新たな関係構築でありました。いかなる人の手に渡ることを、東さんは望むだろうか。あるいは、ここ矢来の地に留まり続けることを望むだろうか。結局、結論は出ないまま、展示を迎えることになりました。私たちにできることは、東さんとその共犯者たる作品を信用することです。まずは鑑賞の機会を作ること。そこから、新たな運動が始まります。

貴重な論文を寄稿していただき、本当にありがとうございました。この言説が氏への返歌に値するとは思っていませんが、東さんに引き寄せられた一人——作者に会うことはできず、ただ作品にのみ邂逅した一人の言説として、氏に届けばと思っております。

                              (2014.11.14 石丸桃麻)

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